がん告知を受ける

癌の告知 がん

がん、癌、がん、癌…転移してる 癌
それからの数日間、そのことで頭の中が埋め尽くされていた。

総合病院の検査データを持ってふたりで大学病院に向かった。

癌研といくつかの大学病院で迷ったが、

  • 癌研はがん専門医しかおらず、他の症状が出た時の対応が不十分になることがあると聞いた
  • 咽頭がん治療の症例数が多い
  • しばらく通うことも考えてアクセスの良さ

その3点で、私立の大学病院を選んだ。
担当医は選べない。
はじめて診察室に入ると、思いとは裏腹に、クロムハーツの大きめのアクセサリーを
首から下げる若い医師だった。

人を外見で判断してはいけない。
けれど、最初の態度、会話から、温かみが一切感じられなかった。

造影CTから喉周辺に巨大な腫瘍があることは分かっているが、
鼻から入れたカメラでは明らかな癌と思われるものが確認できず、
食道内視鏡を入れたところ、下咽頭がんと診断された。

甲状腺や食道への浸潤の可能性もあり、
リンパ節への転移は確実だろうとの見解だった。

選択肢は2つ。

  1. 咽頭すべてと食道の一部、甲状腺の一部と転移しているリンパ節の切除手術を
    即刻行う
  2. 夫の症例に該当する治験があるので、参加する(その場合、事前に
    再度の精密検査、抗がん剤治療、治験薬の服用があり、治療費は全額病院負担
    ただし、希望しても実際治験薬が投与される確率は50%)
    その後、手術。

横目で何度か夫を確認した。
取り乱すこともなく、冷静に見える。

咽頭全てを取れば声帯も失うことになる。
声が出せなくなるのだ。
夫の仕事に『声』は欠かせない。

ステージIVで声の心配をしている場合ではないのだけれど、
ステージIVの癌告知=未来は無い!という思考には全くならなかった。
治った後の生活に思いを馳せて、夫の気持ちを思って辛かったのを覚えている。

治験を提案されるのも全くの想定外だったため、
その日は、結論を保留し帰路についた。

既に飲み込める食事は限られていた夫とふたりで、
駅前の古びたお蕎麦屋さんに入った。
ふたりとも食欲はなかったが何か食べなければという思いだった。

お客もいない、音楽もかからない静かな店内でふたり
今まで生きてきた中で一番美味しくないと思ったお蕎麦だった。

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