治験をうけるか受けないか
簡単に判断できる問題ではなかった。
新薬のこの治験は、再発または転移した咽頭がんの患者さんにある程度効果が実証されているが、
まだ効果が分からない『原発が咽頭』の場合の治験だと説明された。
再発だろうが、転移だろうが、咽頭癌に効果が出ている治療ならば、
可能性があると思ったが、
治験を受けるには、条件が多すぎるのがネックだった。
まず、
- 今一度すべての検査をやり直さなければならない
- 治験を受けたいと申し出ても、実際に治験薬が投与される確率は50%
- 治験薬は抗がん剤のため、癌縮小の可能性があるものの、なかった場合
または、ただのペルソナとされた場合、癌がどんどん大きくなる可能性 - 抗がん剤が合わず、体調を崩した場合、手術も遅れる
など等、なんとも悩ましい。
一度は、治験に心が傾いたが、すでにその時点で毎晩血を喉から吐き出していた夫に
受けられる可能性=50%、薬が効く可能性=未知数の治療に時間を投じてる余裕はないと
夫と話し合って判断した。
咽頭全切除で声を失うことより『命を選ぶよ』と夫は言った
『うん、生きていれば何とかなるよ』
そんな心もとない声をかけたきがする。
『声を失う』事がどれほど生活の質を落とすか、
夫は声を生業にしているわけではないが、声が出ないと仕事はつづけられない。
好きで続けてきた仕事を奪うことになる。
それなのに泣くことも、嘆くことも、落ち込む姿も私には見せず
一番完治を目指せると説明された治療の選択をしてくれた。
あの時期の夫の心の中の葛藤はどれほどのものだっただろう。
次の診察で医師に『治験は受けず、手術することにします』と告げ、
すぐに手術に向けた準備が始まった。
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